腸重積症に関する説明用紙

1. 腸重積の病態について

典型的な腸重積症は、小腸が大腸に入り込むために生じます(下図)。これにより腸管の血行障害や通過障害が引き起こされ、放置すれば腸管壊死・穿孔・腸閉塞に至り、生命にかかわる状態となります。

好発年齢は3ヵ月から2歳頃までです。風邪などのウイルス感染により腸の壁のリンパ組織(リンパ濾胞)が大きく腫れ、これが腸の蠕動運動により内側に引きずり込まれるために生じます。ただし3歳以上のお子様の腸重積症は、小腸のポリープやメッケル憩室(腸管の一部が袋状に残ったもの)などが原因となる割合が高くなります。放置すれば、腸が通過障害をきたしたり、血行障害により穴があいたりして、生命にかかわります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


2. 症状・診断

突然の腹痛で発症しますが、痛みは強くなってはおさまり、時間をおいてまた強くなるというように間欠的です。小さなお子様の場合は、急に不機嫌になり、血液が便に混ざったりします(イチゴゼリー状の血便)。発症から時間が経過すると、嘔吐や腹部膨満などの腸閉塞症状が強くなり、高度の脱水状態に至ります。

多くの場合、腹部の触診(重積した腸が触れます)と超音波検査で診断が可能です。必要に応じて、高圧浣腸を行います(次項参照)。

 

3. 治療

まず行う治療が高圧浣腸です。肛門にチューブを留置し、薄めたバリウムを腸の中に注入し、その圧力で重積した腸を戻す方法です(下左図)。

高圧浣腸で戻らない場合や、発症から長時間経過し高圧浣腸に危険を伴うと判断した場合は、手術が必要です。手術では、重積した腸管を直接手で戻します(下右図)。重積した腸管の損傷が高度な場合、切除が必要となります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


4.  再発について

多くの場合、腸重積症はリンパ濾胞が腫れて起こることが原因ですので、高圧浣腸で戻した後も繰り返すことがあります(再発率:15%)。手術で戻した後も、再発する可能性はあります(5%)。

再発時の症状は初発時と似ているので、疑わしい場合、早めにご連絡ください。早期に発見し高圧浣腸を行うことで、手術になる可能性が低くなります。

 

 

 

 

 


腸重積症

非観血的整復術(高圧浣腸)に関する説明用紙

 

 

1.     非観血的整復術の必要性について

腸重積症は、放置すると腸管の血行障害・通過障害をきたし、生命にかかわる状態となります。そうした状態を回避するため、重積した腸管を元に戻すことが必要です。

 

2.     方法

肛門にチューブを留置し、薄めたバリウムを腸の中に注入し、その圧力で重積した腸を戻します(下図)。

3.     期待される結果

重積した腸が整復され、血行障害・通過障害から回復させることができます。これにともない全身状態の改善が見込めます。高圧浣腸で整復できる割合は、76%です。発症後24時間以内の整復率は79%、24時間以上では53%です。

整復できなかった場合、手術による整復が必要となります(別紙参照)。

整復後、経過観察のために入院していただきます。ミルクや食事の摂取は少しずつ可能となり、問題ないと判断された段階で退院となります(27日)。

 

4.     可能性のある合併症

高圧浣腸は細心の注意を払って行いますが、発症から時間が経っている場合や、腸管の損傷が強い場合に腸に穴が開くこと(穿孔)が有ります(0.1%)。穿孔が生じた場合は緊急手術を行います。

 

5.     当処置を受けない場合に予測される病状の推移

腸管の血行障害・通過障害が高度となり、腸管穿孔・腹膜炎により生命にかかわる状態となります。重積した腸が整復され、通過障害、循環障害より回復させることができます。

 

 

 

 

 

 


腸重積症 手術説明用紙

1. 手術(観血的整復術)の必要性について

腸重積に対して高圧浣腸で整復を試みましたが(あるいは発症から時間が経過し、高圧浣腸による整復では腸が穿孔する危険性が強いため)、整復は不可能でした。このため、直ちに開腹手術を行い、重積した腸を直接手で戻す必要があります。

 

2. 手術方法について

当院の麻酔科医により、全身麻酔をかけます(麻酔に関しては、担当の麻酔科医より説明があります)。臍の右側を縦に開腹(45cm程度)し、重積している腸を引き出します。重積部を手で押し戻し、整復を行います。この方法でも整復が不可能な場合、または整復は可能でも既に腸管が壊死に陥っていた場合は、この部分を切除し、腸をつなぎなおす(吻合)必要があります。腸管のダメージが強く吻合自体困難な場合は、切除した腸の段端を腹壁に固定し、一時的に人工肛門を作成する場合があります。また、メッケル憩室や、ポリープ等の疾患があった場合は2.3%)、同様にその部分の腸を切除し、吻合する必要があります。手術時間は、整復のみであれば12時間程です。腸管切除が必要な場合は数時間に及ぶことがあります。

 

3. 期待される結果

重積した腸が整復され、血行障害・通過障害から回復させることができます。これにともない全身状態の改善が見込めます。ミルクや食事は、手術に伴う腸の麻痺が回復した段階(腸切除なし:数日、腸切除あり:57日)で少しずつ可能となります。入院期間は状況によりますが、術後12週です。

 

4. 可能性のある合併症

出血:        術中及び術後に、創部や操作した腹腔内より出血する場合があります。迅速な止血操作を行いますが、場合により輸血が必要となることがあります。

腸管損傷: 手術操作により、重積部の腸管だけでなく周囲の腸管や臓器を傷付けてしまう可能性があります。その場合、損傷部を縫合し、修復します。

腸穿孔:    腸管の重積を戻した部位の損傷が予想以上であった場合、極めて稀ではありますが、術後に腸管壊死・穿孔が生じる可能性があります。その場合、再手術となります。

皮下膿瘍(術後510日)、創哆開:

皮下に感染した場合、術後1週頃に発赤・腫脹の後、膿が出で傷口が開いてしまうことがあります。この場合、感染が治まった後に再縫合が必要となることがあります。

縫合不全: 腸を切除・吻合した場合、縫合した部位に穴が開き、腹膜炎を起こすことがあります。その場合、再手術が必要となります。

腸閉塞:    開腹手術を行うと、腸管と腸管の間、あるいは腸管とお腹の創との間に癒着が生じます。癒着を起こすこと自体は正常の創の治癒過程ですが、癒着が原因で腸の通過障害(腸閉塞)をひきおこすことがあります。一般に全開腹手術の10%におこる可能性があるとされます。腸閉塞をおこすと、腹痛、嘔吐、腹部膨満といった症状が出現します。内科的治療で軽快することが多いですが、手術が必要となることもあります。

その他:              予期することの困難な、極めて稀な合併症が生じる可能性があります。

 

5. 当処置を受けない場合に予測される病状の推移

腸管の血行障害・通過障害が高度となり、腸管穿孔・腹膜炎により生命にかかわる状態となります。